赤褐色の美しい翼と、深く切れ込んだV字型の尾を持つ鳥「アカトビ」はヨーロッパや北アフリカ近辺に生息しています。準絶滅危惧種に指定されているアカトビですが、イギリスでは一時、急激に個体数を減らしほぼ絶滅するところまで追いやられていました。
この記事では、かつてアカトビの絶滅に瀕した背景やその後の保護活動による復活劇までまとめて解説しています。

そもそもアカトビとはどんな鳥?という方は先にこちらから読むのがおすすめです。
悲劇のはじまり:迫害と絶滅
シェイクスピア時代、中世のロンドンでは、アカトビは街のゴミや死骸を掃除してくれる「清掃係」として、人間と共存していました。しかし、時代が変わるにつれて人々の意識が変わり、アカトビは家禽やペットを襲う「害鳥」と見なされるようになります。
16世紀以降、人間による大規模な駆除が始まり、多くのアカトビが殺されました。その結果、19世紀末には、イングランドとスコットランドでは完全に絶滅。イギリス全体でも、ウェールズ地方の片隅に、わずか数つがいが生き残るのみとなってしまいました。
転機:史上最大級の「再導入プロジェクト」
20世紀に入り、アカトビの価値が見直され、保護への機運が高まります。そして1989年、イギリスの自然保護団体であるRSPB(英国王立鳥類保護協会)と、政府機関などが協力し、イギリスの鳥類保護史上、最も長く、最も成功したと言われる「再導入プロジェクト」が開始されました。
プロジェクトチームは、スペインやスウェーデンなど、まだアカトビが健康に生息している国々から、アカトビの若鳥を譲り受け、かつて彼らが暮らしていたイングランドやスコットランドの、環境が整えられた極秘の場所で、慎重に自然へと放鳥したのです。
この試みは、何年にもわたって、粘り強く続けられました。
奇跡の復活、そして新たな課題
プロジェクトは大成功を収めました。 放たれたアカトビたちは、新しい故郷で見事に繁殖を成功させ、その数を着実に増やしていきました。最初に放鳥されたチルターン丘陵では、今や1,000つがいを超えるアカトビが生息し、高速道路の上を悠々と飛ぶ姿は、日常の光景となっています。
かつて絶滅寸前だったイギリスのアカトビの個体数は、現在では数千つがいにまで回復したと推定されています。
しかし、アカトビの脅威はまだまだ残っています。彼らが直面する新たな脅威、例えば、殺鼠剤による二次被害や、剥製にするための違法な乱獲行為などは、今もなお存在しています。
まとめ:人と自然の共存を象徴する鳥
一度は人間の手によって絶滅まで追いやられ、そして再び、人間の手によって個体数の急増を遂げたアカトビ。 彼らの復活の物語は、人間が自然に与える影響の大きさと、私たちが正しい知識と意志を持てば、失われた自然を取り戻すことができるという、力強い希望の両方を、私たちに教えてくれます。